Technology 技術紹介

悪性脳腫瘍( Glioblastoma )

疾患の特徴

原発性悪性脳腫瘍(神経膠腫)のうち約半分を占めるグリオブラストーマは、5年生存率6.9%、平均生存期間8ヶ月(National Brain Tumor Society)と極めて悪性度の高い疾患です。米国では年間1万人以上が罹患すると推定されています。グリオブラストーマは、脳グリア細胞から発生し、急速に増殖すること、および脳実質内にびまん性に浸潤することを特徴としています。

現在の治療法

標準療法として行われているのは、外科手術、放射線治療、抗がん剤テモゾロミドや分子標的薬ベバシズマブによる化学療法です。しかし、標準療法実施後の再発症例に関しては有効性が証明された治療法はほとんど存在せず、治療手段がない状況です。

外科手術ですが、グリオブラストーマは正常組織との視覚的な判別が難しく、また脳実質内深くまで浸潤しているため完全切除することが困難です。MRI造影病変の100%摘出を行った症例でも3年生存率は10%に留まっており、外科手術による治療には限界があります。

様々な放射線照射法が開発されていますが、基本的には放射線に対しても抵抗性の腫瘍です。

化学療法では、血液脳関門の存在により脳内に到達可能な抗がん剤が限られます。現在のところ効果が示された抗がん剤はほとんどなく、脳内に直接抗がん剤を投与する場合であっても、奥深く浸潤するグリオブラストーマまで抗がん剤を届けることが課題となります。

グリオブラストーマの浸潤

目指す治療法

私たちが進めているのは、既存治療法が存在しない再発グリオブラストーマを対象とした新規遺伝子細胞治療法の開発です。外科手術によって再発グリオブラストーマを切除した後、治療用細胞(治療用NSC)を切除部位に直接移植投与します。投与された治療用NSCは腫瘍が放出するケモカインを感知、腫瘍に向かって遊走し、グリオブラストーマ近傍に治療用遺伝子を送達します。さらにプロドラッグ5-FCが投与されると、血液脳関門を通過、治療用遺伝子CD-UPRTが存在する腫瘍局所のみで抗がん剤に変換されます。そして、腫瘍局所に生じた高濃度の抗がん剤が周辺のグリオブラストーマを死滅させます。

生じる抗がん剤は局所のみに存在するため、一般的な抗がん剤治療よりも安全であることが期待できます。再発グリオブラストーマにおいて有効性が証明された後には、初発グリオブラストーマへの応用も検討しております。

治療用NSCの移植投与
治療用NSC遊走の仕組み